犬と散歩中のご婦人が話しかけてきた。
この蓮池は春から冬へと1年を通じてその美しさを楽しめると。
私が感じていること、いやそれ以上のことをご婦人は喜々として語るのである。
私はこの池を初めて訪れたように、ただひたすらうなずきながら聞くだけであった。
蓮という花を介しているとはいえ、これほど自分の思いを、それも初対面の人から聞かされたのは初めてであった。
花托の穴にきれいな布を詰めたりするとりっぱな置物になるのですよ。
他人様にあげると喜ばれてね。
なるほど、これは女性にしかできないことだなと感心した。
遂に蓮に対する私の思いは一言も言えずに別れた。なぜ私の話も聞いてくれなかったのか、と後で愚痴るのが私の悪い癖である・・・。
可愛い犬ですね、と別れ際に言いましたけどね。